電波(408MHz連続波)でみた天の川

Figure 1: 電波(408MHz連続波)でみた天の川 (Multiwavelength Milky Way –NASA–)

銀河中心領域

天文学者は長い間、銀河系の中心は夏の天の川の射手座、さそり座、へびつかい座の交わる付近にあるのではないかと考えていました。その辺りで天の川が最も明るく広いことがその根拠でした。また、メシエ天体の球状星団29個のうち、7つが射手座、3つがさそり座、6つがへびつかい座と集中していることもその理由のひとつでした。反対に、冬の天の川にはうさぎ座のM79しか存在していません。

銀河中心とティーポット星

Figure 2: 銀河中心とティーポット星 (元画像はWikimedia CommonsのSagittarius_constellation_map.png: Torsten Brongerderivative work: Kxx (Sagittarius_constellation_map.png) [ CC-BY-SA-3.0 or GFDL ]です)

西洋ではいて座はティーポット星とも呼ばれます。ティーポット星の最も西側の星、射手座γ星の西北西5°、肉眼では目立った天体の存在しない赤経17h45.7m、赤緯−29°00'の位置に強力な電波源が観測されたことで、その推測が正しいことが確認されました。いくつかの証拠から、この電波は銀河中心にある超巨大ブラックホールの降着円盤から放射されたものであると考えられています。

銀河中心を取り囲む部分を銀河中心核といいます。銀河中心核は、渦状腕や中心核自体のダストによって短い波長の輻射はブロックされてしまうため、電波、マイクロ波、および、赤外線でしか観測できません。可視光は、星間物質によっておよそ30等級(1兆分の1に相当)減光されてしまいます。

銀河中心核は、1億個の星が半径150光年の球体の中にひしめき合っている究極の球状星団ともいえます。150光年の領域に5万個程度の星が分布するのみの太陽系周辺と比較すると、2千倍以上の密度です。中心核の内部は、急速に進化する巨星/超巨星から成る三つのコンパクトな星団と、高密度ガスおよびダストが混在している状態です。

バルジ領域

いて座大恒星雲(Great Sagittarius Star Cloud)は、天の川の中で肉眼で見ることができる最も遠い天体で、可視光で観測できる最も内側の銀河構造でもあります。いて座γ星とδ星の北に数度に渡って広がる多数のきらめく星を含む明るく輝く領域で、小さな双眼鏡で素晴らしい姿を見ることができます。この天体はバルジ領域の一部です。

バルジ領域には新しい星を形成するためのガスやダストが枯渇しており、渦状腕と違って明るく若い青い星が存在しません。最も明るい星はオレンジ色のK型巨星です。そのため、カラー写真ではいて座大恒星雲は黄色がかった色に写ります。

いて座大小恒星雲

Figure 3: いて座大小恒星雲 (写真:藤井旭)

バルジ領域の大部分は、銀河系内側の渦状腕のダストによって隠されています。もしバルジ全体を見ることができるなら、さそり座の毒針から天の川に沿った方向にはいて座小恒星雲(Small Sagittarius Star Cloud; M24)の辺りまで広がっており、天の川に垂直な方向にはアンタレスに向かって半分の位置まで及ぶでしょう。その中でいて座大恒星雲だけが見えているのは、この方向にかなり大きな星間ダストのすきま(窓)が存在しているからです。

銀河中心方向

Figure 4: 銀河中心方向 (ESO:ヨーロッパ南天天文台)

銀河円盤には同じような窓がいくつか存在し、それを通して比較的遠方を見ることができます。その一つがさそり座のしっぽに位置する散開星団M7の方向で、バルジ領域の一部をかいま見ることができます。カラー写真ではM7周辺の小さな恒星雲が、いて座大恒星雲と同様の黄色がかった色をしています。それゆえ、およそ1千光年の距離にあるM7は前方にあり、2万光年以上遠方のバルジ領域と重なって見えているとわかります。

参考文献

  • Observing The Milky Way, Part I – Sagittarius & Scorpius –, Craig Crossen, Sky and Telescope, Jul. 2013

関連する記事